

東京理科大学薬学部卒業後、修士課程に進学し、東京理科大学大学院薬学研究科修士課程を修了。その後、博士課程に進学し、東京大学大学院薬学研究科博士後期課程を修了。大学院在学時に、物件を探し薬局を創業し、2016年にケーファーマシー株式会社を設立後、代表取締役に就任。
医薬分業という言葉を知っていますか?
一度はどこかで見聞きしたことがあるかもしれません。
現在の医療にも繋がるこの制度、一体どのような制度なのでしょうか。
医薬分業のルーツ
医薬分業とは、医師が診断して処方箋を書き、薬剤師が処方箋に基づき調剤をするという、それぞれの専門家が役割を分担することを意味しています。
ヨーロッパでは800年近い歴史があり、神聖ローマ帝国のフリードリヒⅡ世(1194~1250年)が毒殺を怖れて、主治医の処方した薬を別の者にチェックさせたのが始まりと伝えられています。
1240年には5ヵ条の法律(薬剤師大憲章)を定め、医師が薬局をもつことを禁じました。これが医薬分業と薬剤師制度のルーツとされています。
フリードリヒⅡ世が作った医薬分業は、世界中の規範となり欧米各地に広まりましたが、日本に入ってきたのは明治時代になってからでした。
日本では明治時代から始まる
明治政府は先進国の進んだ医療を取り入れるためドイツから医学を学び、医療制度を導入しました。
ただ江戸時代から薬は医師から直接受け取る習慣があったため日本において医薬分業は受け入れ難いものでした。
また、明治時代では薬代は自由に決めることができ、当時の開業医は診察料よりも薬代で収入を得ていたことが知られています。そのため過剰投薬や薬害を助長させる結果となりました。
つまり医薬分業を廃止し、薬学の専門家である薬剤師が医療の場から消えれば、今日においても、明治時代と同じ状況が起こりえるでしょう。
医薬分業率は右肩上がり
現在は医薬分業率(処方箋受取率)は初の80%を突破し、約50年で大台に到達しました。
全国各地で分業率が増加し、青森、秋田、新潟の3県は90%を超えています。

この表から医薬分業が広く受け入れられ、進展し続けていることが分かります。
医薬分業のメリット、デメリットとは?

医療機関と患者さんにわかれてメリットを見てみよう!
医療機関のメリット
・薬の専門家である薬剤師に調剤や薬の説明を任せることで医師は診察・治療に専念できる。
・病院・診療所で在庫している薬にとらわれず治療に必要な薬を自由に選択できる。
・複数の医療機関を受診している患者さんは多く(65歳以上の約7割)、医師と薬剤師とで処方内容をダブルチェックすることで重複投薬を未然に防ぐことができる。
患者さんのメリット
・日本全国どこの薬局でも処方箋を受け付けられるため待ち時間が短縮される。
・患者さんの体調変化・副作用の把握や飲み合わせの確認等を薬剤師が行うことで安全に薬を服用することができる。
・専門性の高い説明を受けられるため安心して治療を受けることができる。

デメリットはあるの?
デメリット
・病院・診療所から薬局まで移動するため患者さんや家族の方の負担になることがある。
・病院・診療所での支払いと薬局での支払いが発生するため自己負担が増える。
しかし、近年ではオンライン服薬指導のシステムを導入している薬局も普及しているため身体的なデメリットは改善されたのではないでしょうか。
今後の薬剤師の在り方
依然として薬剤師の業務は薬を袋詰めするだけで誰でもできるというイメージがもたれていると思います。
薬学部が4年制のころもありましたが、2006年度から6年制の大学を卒業した者のみが国家試験を受験する資格が得られ、国家試験を合格した資格のある者のみ薬剤師として活躍することができるようになりました。
2015年には厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」により対物業務から対人業務への転換が求められるようになり、2025年までにすべての薬局をかかりつけ薬局にすることを目標とされていまます。
かかりつけ薬局・薬剤師は超高齢化社会の日本において非常に重要であり、また政府の医療費削減においてはセルフケア・セルフメディケーションを推進する動きが強まっており、薬剤師が地域住民の健康をサポートすることも期待されています。
歴史的背景から見て、薬剤師がいなくなった世界を想像するとどうでしょう?不安がありませんか?
現場では高い志をもって働く薬剤師は数多く、他の医療従事者と同じように患者さんに寄り添い適切な薬物療法を提供するため日々模索しています。
チーム医療が中心となった今、より質の高い医療サービスを患者さんに提供できるよう、すべての医療従事者が互いに尊敬し合うことが必要なのかもしれませんね。